節税(所得税)

節税といっても地道に無駄な税金を支払わないようにすることが基本です。

しかし税金対策を積み重ねていけば、かなりの金額の節税になり得ます。
概要ではありますが、以下にその例を示します。

なお所得税法上認められる経費を必要経費といいます。

青色申告

個人事業者の方が確定申告をする方法として、青色申告という方法があります。

これは帳簿を一定のルールに従って作成し、必要書類を保存しておけば、税務上の特典を与えるという制度です。
事前に税務署への申請が必要です。

直接的には最大で65万円の特別控除が受けられます。

なおこれより以後の説明は青色申告の承認を受けていることを前提にしています。

事業専用割合

プライベートと事業の両方に関連する経費は原則として必要経費になりません。

しかし客観的に明らかに区分できれば算入することができます。
例えば家賃は、事業に使用している部分を明確に区分できれば、面積や使用時間の比で按分できます。

その他水道光熱費、通信費、車両関連費、火災保険、固定資産税なども対象となることが考えられます。

必要経費の基本

必要経費になるかどうかの間違えやすい基本的なケースを示しておきます。
もちろん事業に関連する経費であることが前提です。

必要経費になるものは◯、ならないものは✕、事業専用割合により按分するものは△とします。

 支出項目  具体例  判定
 衣服等  作業服・安全靴   ◯
 スーツ・ネクタイ  ※△
 インフラ等  家賃・水道光熱費・通信費   △
 税金  所得税・住民税   ✕
 事業税   ◯
 固定資産税   △
 社会保険(所得控除になります)  国民年金・国民健康保険   ✕
 車両関連費  車両本体・ガソリン代・車検費用   △
 ペナルティー

 

 

 延滞税・無申告加算税等   ✕
 駐車違反の罰金   ✕
 駐車違反のレッカー代(業務使用時)   ◯
 会費

 

 

 町内会費   △
 ロータリークラブ   ✕
 スポーツクラブ   ✕
 金融

 

 借入金の返済元本   ✕
 利子・保証料(期間按分)   ◯
 貸付金   ✕

※ 参考

一般的に事業主のスーツ等は経費にならないという意見が多いのですが、国税庁に問い合わせたところ業務に使用したのであれば事業専用割合で按分するとの回答でした。

また判例(京都地裁 昭和41年(行ウ)第10号 昭和49年5月30日 判決)では経費の検証の中で、スーツについて業務に使用したことを明りょうに区分できれば算入できる余地がある、としています。

では靴下はどうなるのか、と聞かれると正直困ってしまいます。
プライベートで使用できる要素が強いため必要経費にはできないと思います。

微妙なところですが、スーツは取引先との商談で着ないわけにはいきませんから、必要経費に算入できる可能性はあると思います。
だからといって高額なスーツを大量に買った場合は、単なる個人の趣味だと思われても仕方ありません。

なお従業員にスーツを支給した場合は給与扱いとなります。

未払金

年末の時点で商品を購入したりサービスを受けていても、支払いはまだ済んでいない場合もあります。

しかしこのような場合でも必要経費に算入できます。
給与の日割り分や社会保険についても算入できる場合があります。

礼金・保証金

事務所や店舗を借りるときに支払う礼金や保証金で、退去時に返ってこない部分は必要経費に算入することができますが、一度ではなく数年に分けて算入することになっています。

このような経費を繰延資産といいますが、この繰延資産は金額が20万円未満のものは簡便的な処理が認められていて、一度に必要経費に算入できます。

前払い

翌年1年分の前払い家賃や損害保険料は、その支払った年の必要経費に算入できます。

ただし翌々年以後の分も含めて支払っているときは算入できません。
またこの処理は毎年継続する必要があります。

さらに継続的な役務の提供を受ける契約をしているものに限るので、物品を購入する場合には適用できません。

在庫の評価

年末には在庫を数えて資産に計上することになりますが、その在庫の金額の計算方法(評価方法)は実は複数あります。

この評価方法によっては売上原価の金額が変わってくるので、所得(利益)にも影響があります。

なお在庫の評価方法を変更する場合は事前の申請が必要です。
また同じ評価方法は3年間は継続して適用する必要があります。

勤労者共済会

勤労者共済会とは福利厚生を目的とした団体で、各市区町村が運営しています。

出産・入学・卒業・結婚などのイベントではお祝い金がもらえたり、旅行やスポーツイベントが割引で利用できたりします。

従業員が1人でもいれば加入することができ、会費は一人あたり月額500円~700円程度で全額が必要経費に算入されます。

詳細は各地方自治体にお問い合わせ下さい。

中退共

中小企業退職金共済制度(中退金制度)は、毎月一定の掛け金を支払い、従業員が退職したら中退共からその従業員に直接退職金が支給される退職金の共済制度です。

従業員が突然退職した場合の退職金資金の心配をする必要がなく、掛け金は全額が必要経費に算入されるので、検討する価値が非常にあると言えます。

また国から数ヶ月間、一定額を補助してもらえるお得な補助制度もあります。

給与以外で従業員に支給するもの

食事代、健康診断、社宅、日当、スポーツクラブなどは節税(食事代)又は節税(福利厚生費等)をご覧下さい。

減価償却資産

建物、建物附属設備、機械装置、器具備品、車両運搬具などの資産はいきなり全額を必要経費にすることができません。
何年かに渡って必要経費にしていきます。

この資産を減価償却資産といいます。
また減価償却資産を必要経費にする処理を減価償却といいます。

しかし少額の減価償却資産については、短期間で必要経費に算入できる例外の規定があります。

少額減価償却資産

・10万円未満の減価償却資産・・・購入し使用した年に全額が必要経費になります。
・10万円以上20万円未満の減価償却資産・・・購入し使用した年から3年で均等に必要経費とします。
・10万円以上30万円未満の減価償却資産・・・購入し使用した年に全額が必要経費になります。(合計300万円まで。期間限定の特例です。)

中古の減価償却資産

中古の減価償却資産であれば、必要経費にする期間が短くなります。
最短で2年です。

ただし月割りをするので1月に購入した方が効果が高いです。

修繕費

減価償却資産を修理した場合、純粋な修理であれば全額が必要経費に算入されます。

しかし価値が増したり使用できる期間が延びる場合は、減価償却資産として減価償却の対象になります。

なお20万円未満の修繕費は、内容を問わず簡便的に全額を必要経費とすることができます。

税抜き経理

特例などで何円未満であれば必要経費に算入できる、などの規定がありますが、消費税を含めて判断するのかどうかは経理の処理方法によります。

税込みで記帳している場合は税込みで判断し、税抜きで記帳している場合は税抜きで判断します。

よって税抜きで記帳すれば判断の基準が下がるので、一般的には税抜きによる方法が採られています。

なお消費税の免税事業者は税込みで記帳するしかありません。

開業費

必要経費になるものでも、事業を開始する前に支出したものは、開業費として繰延資産という資産に計上しなければなりません。

この繰延資産は数年に渡って必要経費にしていく(償却する)のですが、開業費については償却は任意となっています。

よって都合のいいときに償却して利益を調整してもかまわないことになります。

固定資産税

固定資産に課税される固定資産税は役所から送付されてくる通知書に従って納税します。

しかし来年の納期の分であっても通知された年に全額を必要経費に算入できます。

親族所有の資産

生計を一にする親族が所有する資産(例えば建物)の使用料は、実際にお金を支払ってとしても必要経費に算入されません。

ただしその親族が所有する建物に関する減価償却費、固定資産税等は必要経費に算入できます。(事業専用割合による按分は必要)

また資産の使用料だけでなく、サービスの提供などの場合も同じ考え方になります。
その親族側は収入も必要経費も認識できません。

青色専従者給与

本来は生計を一にする親族への給与は経費になりません。

しかし青色事業専従者給与に関する届出書を提出することにより、一定の要件のもとに必要経費に算入できます。

貸倒損失

売掛金や事業に関連する貸付金が回収できなくなった場合は、貸倒損失として必要経費に算入できます。

しかし一定の要件を満たす必要があり、証拠となる書類もとっておくことになります。

・法的基準・・・債権の消滅が法的に認められる場合
・実質基準・・・実質的に全額が回収不能な場合
・形式基準・・・売掛債権について取引停止後1年以上回収できていない場合等

貸倒引当金

上記の貸倒損失に備えて、事前に一定の損失の見積額を必要経費に計上できます。

これを貸倒引当金といい、例えば債権の5.5%までの金額が認められる場合などがあります。

純損失の繰越控除・繰戻し還付

事業で赤字になってしまった場合、その赤字(損失)は確定申告書を提出し続ければ、3年間繰り越して使用することができます。

つまり利益(所得)と相殺できるので、その分税金がかからなくなります。

また前年が黒字で所得税を納めていた場合、前年の所得と相殺して納め過ぎた所得税の還付を受けることができます。

小規模企業共済

小規模企業共済とは個人事業主の退職金制度のようなものです。

例えば毎月3万円の掛け金を30年間支払い続けて廃業(引退)した場合、掛金の合計はおよそ1,000万円ですが、受け取れる共済金はおよそ1,300万円です。(運用実績により変動する場合があります。)

ちなみにこのケースであれば税金は所得税・住民税共に0円です。

また掛け金は全額が社会保険料控除として所得控除の対象になります。

その掛け金の範囲で貸付けが受けられる制度もあり、非常に使い勝手がよい仕組みであると言えます。

退職所得

退職金を受け取ると退職所得として課税がされますが、他の所得より優遇されています。

上記の小規模企業共済の共済金も退職所得に該当します。

計算方法はまず退職所得控除額を差し引きます。
そしてその結果得られた金額を半分にして税率を掛けるので、かなり税金は低く抑えられます。

(例)退職金や共済金が1,800万円で、勤続又は掛金納付期間30年の場合

(18,000,000ー15,000,000)✕ 1/2 =1,500,000
所得税:5% → 75,000円
住民税:10% → 150,000円

逆配偶者控除

例えば夫が個人事業主で妻が青色事業専従者(夫から給与をもらっている)の場合、配偶者控除は適用できません。

しかし夫の事業が赤字など所得が低ければ、妻が配偶者控除を受けられる可能性があります。

つまり妻が夫を養っているという解釈です。

配偶者控除だけを考えれば法的には問題ありませんが、ただ妻の給与がもらい過ぎではないかという問題が出てくるので、妥当性は検討する必要があります。

確定申告不要

所得税法では収入があっても確定申告をする必要がない場合があります。

例えば一時所得は50万円まで確定申告をする必要がありません。

自分が支払っていた生命保険の満期保険金収入も一時所得に該当し、今までに払い込んだ金額を引いた金額が50万円以下であれば、確定申告は不要となります。

給与所得者の場合

いわゆるサラリーマンなど給与収入のみの方は、給与所得と退職所得以外の所得が20万円以下であれば確定申告をする必要がありません。

所得とは利益のことです。

例えば副業でインターネットオークションをしているとします。

この場合は事業所得にはならないので雑所得扱いになると考えるのが一般的です。
よって青色申告の承認申請はできないことになります。

なので単純に収入から必要経費を引いた所得の金額が20万円以下かどうかで判定します。

この計算は自分で行って判断します。

自分で計算をして間違っていたらどうなるのかと思われるかもしれませんが、法律上は自分で計算して判断するか税理士に依頼するかのいずれかです。

間違ったまま埋もれてしまっているケースも多いかもしれませんが、今現在ではそういうルールになっています。

零細的な規模では税務調査が来る可能性は低いですが、証拠となる書類は5年間はとっておいた方がいいと言えます。

非課税

所得税は基本的に個人の収入に対して課されますが、社会政策上などの観点から非課税とされているものもあり、はじめから確定申告を考える必要はありません。

例えば、
・会社から支給される通勤手当(10万円まで)
・日用品の譲渡(1個30万円を超える貴金属等は除く)
・損害賠償金
・宝くじの当選金品
・失業給付
・児童手当
・健康保険給付
などがあります。

事業者の税額控除

青色申告書を提出している事業者の方に対する税額控除制度もあります。

しかし法人税の税額控除と同じ場合も多いので節税(法人税)もご参照下さい。