たまに扶養に入るという言い方を聞きますが、ちょっと様々な話しが混乱しているのかもしれません。
扶養とはどういうことなのか、詳しく見ていきましょう。
扶養の意義
扶養とは独立して生計を営めない者の生活を他者が援助することです。
簡単に言えば経済的に養うことです。
所得税法の場合
所得税法では、親族等を扶養していて、一定の条件に該当すれば所得控除を受けることができ、税金を安くすることができます。
そしてたまに勘違いをされる場合がありますが、特に何かの許可をもらったり登録したりする必要はありません。
条件に該当すれば、確定申告書に生年月日等の必要事項を記載して適用を受けられます。 (又は年末調整)
ちょっと乱暴な例えですが、携帯電話で家族割引という制度があります。
家族で同じ携帯電話会社と契約すれば電話代を安くするという制度です。
これと同じで、条件に該当すれば税金を安くするというだけの話しなのです。
何か特別な登録などがあるわけではありません。
民法の規定
民法という市民生活の基本ルールを定めた法律には扶養義務の規定があります。
しかしこの民法上の扶養と所得税法上の扶養とでは、対象としている範囲が違う部分もあります。
また民法は簡単に言えば近い親族は扶養しなさい、というルールなのに対し、所得税法では、扶養しているなら所得控除の適用があるという規定なので、結論が根本的に違います。
確かに所得税法は民法の考え方がある程度前提にはなっていますが、切り離して考えたほうが分かりやすいと思います。
よって民法はとりあえず置いといて、単純に条件に該当さえすれば、確定申告書を提出して(又は年末調整で)扶養控除の適用が受けられると考えておけば問題ありません。
扶養されている者の確定申告書の提出
扶養されている者であっても当然確定申告書を提出することはできます。
例えば25才の息子が失業状態で収入がなかったとします。
親から見れば息子を扶養していることになるので、所得控除(扶養控除)の適用があります。
しかしこのケースであっても、息子が確定申告書を提出する可能性はあります。
例えば収入がなかったとしても、株式投資で損を出していれば、その損失を繰り越すために損失の確定申告書を提出することは可能です。
また例えば資格試験の勉強中などで収入がない状態の場合、国民年金の免除を受けるためには確定申告をしておく必要があります。(実務上は住民税の確定申告となる可能性が高い)
扶養されているから確定申告ができないとか、そのような規定はありません。
国民健康保険の場合
国民健康保険は自営業者の方や組織にお勤めでない方などが加入される健康保険制度です。
これもたまに誤解されますが、国民健康保険には扶養という考えはありません。
保険料の支払いは世帯主に一括して請求が来るので、何となく扶養控除という制度があるように思えるだけです。
ただ世帯の収入が低ければ保険料(均等割額等)が軽減される制度はあります。
健康保険の場合
会社や組織にお勤めの方は、国民健康保険以外の健康保険制度に加入することになります。
この場合扶養している一定の親族の方がいれば、届出を出して認定されるとその親族の方もその健康保険に加入できることになります。
しかしこれは所得税法のように何かが安くなるという制度ではなく、保険料の追加払いをしないで健康保険に加入できるという制度です。
このように扶養といっても、制度ごとに取扱いが違うので混同しやすいのですが、それぞれの制度を別々に把握するしかありません。
よって扶養に入る入らないという考えではなく、例えば親であれば子を扶養することは当然の義務です。
その上で各法律で定める条件に該当すれば、一定の手続きで特典が受けられるという仕組みになっています。
扶養から外れた?
妻のパート代が103万円を超えたから、扶養から外れた。
という言い方をよく聞きます。
しかし「扶養から外れた」ということは独立して家から出ていったことを意味しています。
「配偶者控除が受けられなくなった」、簡単に言えば「控除が受けられなくなった」、が適切な言い方です。
特典が受けられなくなっただけで、扶養している事実は何も変わっていないはずです。
ちなみに103万円を超えても配偶者特別控除の適用がある可能性があります。
所得控除(配偶者控除)
それでは具体的に扶養している者がいる場合の所得控除の規定を見ていきます。
なお住民税も条件(適用要件)は同じですが、控除額が違うので、合わせて記載しておきます。
(適用要件)
・配偶者であること
・配偶者と生計を一にしていること
・配偶者の合計所得金額が38万円以下であること(給与のみであれば年収103万円以下)
・配偶者が青色事業専従者として給与を受けていないこと又は事業専従者でないこと
・配偶者が他の者の扶養控除の対象となっていないこと
(適用要件の判定時期)
その年の12月31日。ただし年の中途で亡くなられた場合はその時点。
(控除額~所得税~)
・38万円(70才以上である老人控除対象配偶者は48万円)
(控除額~住民税~)
・33万円(70才以上である老人控除対象配偶者は38万円)
所得控除(配偶者特別控除)
配偶者控除を受けられる金額として、配偶者の年間の給与が103万円までとはよく言われますが、103万円を超えても1,409,999円までは配偶者特別控除の適用があります。
(適用要件)
・配偶者であること
・配偶者と生計を一にしていること
・配偶者の合計所得金額が38万円超76万円未満であること(給与のみであれば年収103万円超1,409,999円以下)
・配偶者が青色事業専従者として給与を受けていないこと又は事業専従者でないこと
・配偶者が他の者の扶養親族となっていないこと
・適用を受ける者の合計所得金額が1,000万円以下であること(給与のみであれば12,315,790円以下)
・夫婦で互いにこの規定を受けないこと
(控除額~所得税~)
・3万円~38万円 具体的な金額はこちらをご参照下さい。
(控除額~住民税~)
・3万円~33万円
所得控除(扶養控除)
(適用要件)
・親族(配偶者を除く)、里子、養護委託老人のいずれかであること
・これらの者のそれぞれの合計所得金額が38万円以下であること(給与のみであれば年収103万円以下)
・これらの者と生計を一にしていること(成人まで離婚に伴う養育費を支払っている場合等も含む)
※上記の3要件を満たす場合は扶養親族という。
また
・扶養親族が青色事業専従者として給与を受けていないこと又は事業専従者でないこと
・扶養親族が他の者の扶養控除の対象となっていないこと
も要件となります。
(適用要件の判定時期)
その年の12月31日。ただし年の中途で亡くなられた場合はその時点。
(控除額~所得税~)
・一般扶養親族(16~18才、23才~69才) 38万円
・特定扶養親族(19才~22才) 63万円
・老人扶養親族(70才~) 48万円(同居老親等なら58万円)
(控除額~住民税~)
・一般扶養親族(16~18才、23才~69才) 33万円
・特定扶養親族(19才~22才) 45万円
・老人扶養親族(70才~) 38万円(同居老親等なら45万円)
※同居老親等とは老人扶養親族で、同居している自分又は配偶者の親・祖父・祖母です。
※0才~15才は児童手当が支給されます。
所得控除(寡婦控除)
人のあり方によって所得を控除する制度を一般的に人的控除といいますが、誰かを扶養していなくても、人的控除を受けられる場合があり、以後は残りの人的控除を見ていきます。
(適用要件~①扶養している者がいる場合~)
・夫と死別又は離婚後に婚姻していないこと、又は一定期間夫の生死が不明であること
・扶養親族又は生計を一にする子がいること(子は総所得金額等が38万円以下(給与のみであれば年収103万円以下)で他の者の所得控除の対象となっていないこと)
(適用要件~② ①に該当しなかった場合~)
・夫と死別後に婚姻していないこと、又は一定期間夫の生死が不明であること
・合計所得金額が500万円以下であること(給与のみであれば年収が6,888,889円以下)
(適用要件の判定時期)
その年の12月31日。ただし年の中途で亡くなられた場合はその時点。
(控除額~所得税~)
・27万円(扶養親族である子がいて、自分の合計所得金額が500万円以下の場合は特別の寡婦として35万円)
(控除額~住民税~)
・26万円(特別の寡婦は30万円)
※特定の寡婦、特別の寡婦、どちらの言い方もあります。
所得控除(寡夫控除)
(適用要件)
・妻と死別又は離婚後に婚姻していないこと、又は一定期間妻の生死が不明であること
・生計を一にする子がいること(子は総所得金額等が38万円以下で他の者の所得控除の対象となっていないこと)
・合計所得金額が500万円以下であること
(適用要件の判定時期)
その年の12月31日。ただし年の中途で亡くなられた場合はその時点。
(控除額)
・27万円(住民税は26万円)
所得控除(障害者控除)
(適用要件)
・障害者(基本的には障害者手帳の交付を受けている方)に該当する場合及び障害者の方を扶養している場合
(適用要件の判定時期)
その年の12月31日。ただし年の中途で亡くなられた場合はその時点。
(控除額~自分が障害者の場合~)
・27万円(例えば障害の程度が1級や2級などの特別障害者の場合は40万円)
(控除額~障害者の方を扶養している場合~)
・27万円(特別障害者は40万円、同居特別障害者は75万円)
(控除額~住民税~)
上記の金額27万円を26万円、40万円を30万円、75万円を53万円と読み替えて下さい。
所得控除(勤労学生控除)
(適用要件)
・学生、生徒であること(専門学校等は証明書が必要な場合があります)
・給与など勤労による収入があること
・合計所得金額が65万円以下(給与のみであれば年収130万円以下)で、かつ勤労以外の所得(利益)が10万円以下であること
(適用要件の判定時期)
その年の12月31日。ただし年の中途で亡くなられた場合はその時点。
(控除額)
・27万円(住民税は26万円)
所得控除(基礎控除)
要件がなく38万円の控除があります。(住民税は33万円)